Interview
ナチュマルワインストア店主

福島啓介

日本ワイン専門店

いまやビストロなどでは目にすることが当たり前となったナチュラルワイン。赤、白、オレンジ、産地によるテロワール、生産者の個性による違いがさまざまなバリエーションを生み出し、料理とペアリングすれば食の楽しみと奥深さはさらに広がるだろう。そんなナチュラルワインの魅力を日本の生産者さんに特化するかたちで伝えるのは、東京・大岡山で日本ワイン専門店「ナチュマルワインストア」を営む、福島啓介さん。今回は、福島さんが日本ワインと共通点があると話す丹沢HERBSのハーブティーをお店で扱うようになった経緯と、そこから見えてきた“日本ワインの現在地”について、福島さんのお店と姉妹店のフレンチレストラン「バタコサンク」に伺い、お話を聞いた。

ーまずは、福島さんがナチュマルワインストアとして日本ワイン専門店をはじめた経緯について教えてください。

福島:以前は料理人をしていたのですが、食材の新鮮さを求めるにつれて牛肉、野菜、鶏卵などの生産者さんの元へと足を運ぶ機会が増えていったんですね。日本ワインも同じように食材と捉えて扱わせていただきながら、生産者さんの元へと足を運ぶうちに、ワインの生産現場に落ちている造り手さんの情熱やストーリーをもっと世に伝えたいという想いが強くなっていったんです。こういった背景を食卓へと繋ぐための架け橋としてはじめたのが、ナチュマルワインストアなんです。

ー料理人から日本ワイン専門店の店主に転身したのは、なぜだったのでしょうか?

福島:日本の食材にこだわったレストランで働いていたときに、お客さまに「この料理に合わせたワインを選んでほしい」と頼まれたことがあったんです。それで、料理にバッチリ合うイタリアワインを選んだのですが、そのお客さまが「せっかく日本の食材にこだわっているのに、日本ワインではないんですね」とおっしゃいました。そこでハッとしてしまって。料理とワインの総合的な食体験を追求していたのに、これではダメだと、日本ワインを勉強するために全国のワイナリーを渡り歩くようになりました。

ーぶどう畑に足を運んで見えた景色についてお聞きしたいのですが、生産現場で感じた日本ワインの未来は、福島さんの目にどのように映りましたか?

福島:そもそもワインは西洋から入ってきたものなので、かつては海外の基準を追いかけて日本ワインをつくり、その味を海外のワインと比較されることが常でした。ただ最近はというと、日本のテロワールを活かした“日本らしいワイン造り”が主流になってきたので、人や環境においても無理のない手法がとられるようになり、味わいや風味は年々改善されてきています。一方で生産現場の改善とは裏腹に、少ない生産本数では扱ってもらえる場所は限られますし、生産者さんとしては美味しくできたワインの魅力を伝えたいのに、温度管理がよりシビアなナチュラルワインは安定的にスーパーに並べることはできない。これでは日本ワインの魅力は広がっていかないですよね。こうした市場の乖離を埋めることが私たちのミッションなんです。

ー日本各地の土地の魅力を活かした日本ワインに造詣が深い福島さんが丹沢HERBSのハーブティーを扱うことになったのは、どのようなきっかけでしたか?

福島:ハーブティーは日本ワインと対になる存在なんですよ。ワインを一休みするときにハーブティーを飲んでもらうことで、日本ワインをより楽しんでいただけると思っているんです。丹沢HERBSは、私が関わらせていただいている青山ファーマーズマーケットのNatural Wine Loveというワインイベントの打ち合わせで週末のマーケットを訪れたときに偶然知ったのですが、ブースで試飲させていただいてすぐに気に入り、畑にも伺わせていただきました。私が扱っている日本ワインは、日本で育てられたぶどうに余計なモノを入れず、シンプルに表現している造り手さんのものなのですが、丹沢HERBSのハーブティーもシンプルに素材の味を引き出している点は同じでした。

ーいま、ワインとハーブティーが対になっているというお話をされましたが、ハーブティーを提供する上で、お客さんからはどのような声をいただいていますか?

福島:ノンアルコール需要もそうですが、いまレストランではカフェインに対するネガティブがあるんです。せっかくディナーを食べてこれから寝ようとしているときに、エスプレッソなどの強すぎるカフェインを摂ってしまっては良質な睡眠は得られない。ホテルやレストランでは強いカフェインが勧めづらい時代になってきているんです。私も学芸大学でバタコサンクというフレンチレストランをやっているので、この背景からコース料理の最後にリラックスして帰っていただくためのハーブティーを探していたのですが、“無添加で自然につくられた身体に馴染むもの”という、ナチュラルワインと同じコンセプトの丹沢HERBSと出会えたことで、より多くの方に料理を楽しんでもらえるようになったと感じています。

ーでは、バタコサンクでは丹沢HERBSのハーブティーをどのように提供しているのでしょう?

福島:バタコサンクは、ナチュマルワインストアの姉妹店としてやっているフレンチレストランなので、100%うちのセラーで扱わせていただいている日本ワインを料理と一緒に提供しております。香りや味わい、色味まで楽しむことのできるワインですから、ここではハーブティーの色も同様に楽しめるよう、フレンチプレスで淹れさせていただいています。コース料理の最後には「ひといき」「ひらめき」「月詠(つくよみ)」の3種類からハーブティーをお選びいただけます。

ーなぜこの3種類だったのでしょうか

福島:リラックスしていただきたいという想いは当然あるのですが、これらのブレンドには、すべてレモングラスが入っているんです。バタコサンクはフレンチレストランということもあり、よくハーブを使用するので、料理の観点からブレンドを選んでいます。

ー料理との相性で選ばれていたんですね。料理を一皿ずつ楽しむことはもちろんですが、コース全体を通して料理を考えるフランス料理であれば、ワインやハーブティーが与える影響も大きそうですし、表現の幅も広がりそうです。

福島:そうなんです。バタコサンクの藤井辰哉シェフとともにアイデアを出し合いながら、私のもっている知識を活かして、ワインを基にした料理のレシピ開発をしています。新鮮な食材からインスピレーションを得てボトルを選ぶこともあれば、ワインに合わせて料理を考えたり、藤井の料理に合わせて私がワインを選び、そこからさらに料理をアレンジしてベストなペアリングを探すこともあります。例えば、ハーブの香りがする白ワインがあれば、料理からハーブを抜いてもらったり、スパイシーな香りのする赤ワインがあれば、料理から黒胡椒を抜いてもらう。料理とワインが補完し合うような関係を互いに擦り合わせているんです。

ーなるほど。藤井シェフは、ご自身の料理と丹沢HERBSとの相性をどう考えていますか? 今回「ひらめき」とのペアリングでつくっていただいた料理も美味しそうです。

藤井:既製品のハーブティーでは香りが強すぎて料理が負けてしまうことがあるのですが、丹沢HERBSは優しい香りをダイレクトに感じることができるので、素材を活かすことをコンセプトにしているバタコサンクの料理とは相性がいいんです。香りはもちろん、シンプルな素材構成を視覚的にも楽しんでいただけますし、最後に自身でプレスして注ぐことで、ハーブティーを食事と同様の体験として最後までしっかり味わうことができる。みなさん最後までペアリングを楽しんでいただいている印象です。「ひらめき」はレモングラスなどのハーブの香りが楽しめるブレンドなので、今回は柑橘やディルなどと相性のいいハーブを加えた「ホタテと柑橘のタルタル」をペアリングにご用意しました。ホタテとグレープフルーツのタルタルを薄くスライスした金柑の上にのせ、そこに紅しぐれ大根、ニンニクの香りがするロックチャイム、ブレンドにも入っているカレンデュラの花びらをトッピングして、花の色合いも足しています。

ーシェフとソムリエの関係に、さらにハーブ畑の風景が加わることで、料理の可能性が広がっていきますね。

福島:強く煮出したハーブティーにゆでたまごを漬け込ませて、レモングラスの香りがするウフマヨをつくってみたり、ハーブティーを調味料のように使うこともありますよ。フランスではブーケガルニといって、動物性食材の臭みを消すためにハーブの束を入れたりするので、肉や魚の出汁をハーブティーで伸ばすことで、ワインやハーブティーとの相性をより深めることができる。もちろん、飲み物としてオリジナリティ溢れるブレンドをいただくという意味では、魚料理に合わせてレモングラスとタイムのブレンドを用意しても面白いでしょうし、肉料理に合わせたものだってアレンジできる。レストランごとに異なるブレンドが味わえれば、食事の楽しみ方も広がっていきますよね。

ー福島さんたちのような方々が畑に足を運ぶことで、畑にも新たな情報が還っていきそうです。

福島:ハーブティーにコンブチャやビネガーをブレンドしてみたりと、最近ではソバーキュリアスと呼ばれるムーブメントも相まって、ワインのようなニュアンスのオリジナルドリンクをつくるシェフも増えてきています。有名なシェフたちがこうしたドリンクを広めることで、レストランでもハーブティーが出しやすくなっていく。タッチポイントが増えれば生産量を増やすことにも繋がりますし、僕らが畑を訪れてレストランの話をすることで、生産者さん側にも新たな視点が生まれるかもしれない。5月にまた丹沢の畑へ伺う予定なので、どのようなハーブが収穫できるか楽しみにしています。

ーこうお話を伺うと、ナチュラルワインとハーブティーにも共通点が見えてきますね。ハーブティーは単にコースの最後に飲むための添え物ではなく、ナチュラルワインと同様にペアリングしながら楽しむことで、料理の可能性を広げる一手となる。

福島:そうですね、ハーブティーも料理には欠かせない要素になっています。自然素材をシンプルに表現するからこそ生産者さんの個性やスタイルが見えてきますし、それぞれの情熱やストーリーをしっかりとすくい上げることで、料理の味や楽しみ方は広がっていく。ワインと同じですね。畑からレストラン、そして、みなさんの食卓へ。僕らのようなプレーヤーが好奇心を高めて接点を少しでも増やしながら循環をつくることが、ゆくゆくはハーブや日本ワインの生産量にも繋がっていくはず。まずはレストランでの“美味しい体験”から、徐々に生産者さんの魅力を知ってもらえたら嬉しいですね。

ナチュマルワインストア店主
福島啓介

1985年、北海道生まれ。学生時代より料理の道を志し、香港とフランスへ短期留学。世界のキッチンで食に向けられた情熱を目の当たりにする。卒業後はイタリア人のレストランオーナーから熱烈なアプローチを受けて渡伊。イタリアンレストランで再び料理の道へと舞い戻り、修行の日々を送る。帰国後は自身のレストランを立ち上げるが、お客さんとの会話から日本ワインの世界へ。2022年より大岡山で日本ワイン専門店「ナチュマルワインストア」をオープン。足繁くワイナリーへと赴き、ワインを通して生産者の情熱をそのストーリーとともに畑から食卓へと運ぶ。姉妹店の「バタコサンク」では同店のワインを扱いながらフランス料理を提供し、近年では青山ファーマーズマーケットでのワインイベント「Natural Wine Love」の運営にも携わるなど、ワインを軸に食の魅力と活躍の場を広げている。

バタコサンクシェフ
藤井辰哉

1985年、北海道生まれ。2025年、食通たちから惜しまれながらも閉店した、東京・三田の老舗グランメゾン「コート・ドール」の札幌店に10年間勤務し、スーシェフを務めるまでに。その後もオステリアヒラクヤのキッチンに立ちシェフとしての腕を磨くと、2024年にナチュマルワインストアの福島氏とともにフレンチレストラン「バタコサンク」を東京・学芸大学にオープン。全国から厳選した食材を使用し、素材の味を活かしたフランス料理は、日本ワインとのペアリングとともに幅広く提案される。

ナチュマルワインストア

〒145-0063 東京都大田区南千束3丁目5−11
OPEN:月、木〜土 13:00〜16:00(定休日:火、水、日)

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バタコサンク

〒152-0004 東京都目黒区鷹番3丁目4−10 サンハウス 1F
OPEN:月、木、金 18:00〜24:00、土 12:00〜23:00、日 12:00~24:00(定休日:火、水)

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  • Photo:Masayuki Nakaya   Text:Jun Kuramoto(WATARIGARASU)